〔2001년〕画家 イ・ジョンヨン①‥名前のない出来事
RHEE JEONG YOEN)の作品‥大地の感触
[▲ Re-Genesis, 112×162㎝ Korea Lacquer Painting with Nature Materials on Hemp Cloth, 2001] 李貞演(イ・ジョンヨン)はここまで到達してきた−今年の5月にソウルで彼女の作品を初めて見たとき、僕は、はじめてにもかかわらず「彼女はここまで到達してきた」と直感的に思った。ぐるりと遍歴の縁をえがいて、しかし螺旋状のひとつ上の位置の「元」に戻ってきた。そういう雰囲気ははっきりしていると感じられたのだ。
作品を見たあと、過去の作品の資料を見せてもらったら、やはりそうだとわかった。学生時代に東洋画を学び、のちに西洋画へと変わっていった移行。西洋画のなかでも、アメリカ留学をはさみながら、いくつかのシンボリックなかたちを核にした。
フォーク的、表現主義的、ときにシュルレアリスム的な様式から、あたかもなんらかの呪縛が解かれたかのように、色彩が明るくなり、かたちが抽象度を増した様式へ、そしてさらに1990年代最末期の、大ぶりの筆触とかたち、東洋画のように地を白く様式へと変わってきた遍歴、ひとまわりそういう変化、移行、遍歴を経た果てに、彼女は、たぶん自分にいちばん合ったものに行き当たったのである。「ここまで到達してきた」とはそういう意味にほかならない。
[▲ 60.5×72.5㎝] 自分にとっていちばん合ったもの–自身の「元」、本源。自分がそこから出てきたところ、そしていずれそこへ帰っていくところ。年齢的にも、彼女はいま人生の半ばにきしかかっている。ところで、絵画作品とは、イメージないし平面空間を物質によって作り上げるもののことである。そしてその平面空間ないしイメージは、地と図からなるものである。
李貞演の作品を作り上げる物質は、螺旋が一まわり上へやってきたところで大きく変化している。それらは、漆、土、炭や石の灰、綿布など、すべて自然の素材に変わっているのだ。そしてそのめ、見てすぐにわかるように、彼女の現在の作品は土っぽい、大地の感触の、ざらついていてしかし目になじみやすい、独特の肌合いのものになっている。そのテクスチャーの衝撃力は強い。
[▲ 116×91㎝] 強いだけでなく、また「母なる大地」といったものを当然感じさせるにしても、それだけではなく、すくなくとも東アジアの大地の人間にとっては、自然の根の深み、遠い記憶に連なるものに訴えかけているものをもっていることは間違いない。しかし、絵画はテクスチャーだけから成るものではない。そこに何が描かれているのか、あるいは描かれていないのか、それが絵画に他ならないからだ。
李貞演のこんどの「出会い」連作で、そのテクスチャーと並んで特徴的なのは、90年代末期まではかたちを次第に抽象化させ、最後はかたちがほとんど無くなって大ぶりの線にまでなっていたのに、はっきりしたかたち、骨のような竹のようなかたちがここで登場しているところである。そして、しかもそのかたちが明確な何か(以前なら十字架とか魚とか)ではないということである。かたちから出発して、それを画面のなかに溶け翔ませるように抽象化させてきた彼女の作品に、地とは明確に区別されるかたちが(再)登場してきたことは、小さなことではない。しかも、しかしそのかたちは何と明言できるものではない。そのことも、偶然ではないし、小さなことでもない。
[▲ 193.5×259㎝] 独特のテクスチャーと、骨か竹のような特異なかたちから成る彼女の絵画は、僕には、生命や物事の始まりを暗示的に表現しているものと見える。くりかえすが、かたちがではなく、かたち(図)と地(テクスチャー)によって醸し出されるその広がりが、だ。骨か竹のようなかたちは、植物と同時に、筒状のある種の原生的な動物を連想させる。つつまり、ある生命体が生命体としてのかたちを成す、その始まりの姿を想わせるものである。
そしてそのかたちを作っている生地と、テクスチャーの生地とが、同一である點に、注意すべきだ。このかたちは、このテクスチャーの場に突然どこかから舞い翔んできたものではない。それは、むしろこのテクスチャーのなかから生まれてきたものというべきである。たとえば、卵子と精子の結合したものが子宮内壁に着床し、子宮そのものをいわば地として胎児がそのかたちを成していくように、である。
▲글=지바 시게오/미술평론가(千葉成夫/美術評論家, Chiba Shigeo/Art Critic)
◇평론요약(評論要約)
일본의 미술평론가 지바 시게오(千葉成夫)씨는 2001년 5월 서울에서 화가 이정연(Rhee Jeong Yoen)의 ‘신창세기(Re-Genesis)연작전시를 관람하고 다음과 같이 평했다. “이정연(李貞演)작가의 현재 작품은 흙 느낌의, 대지의 감촉의, 거칠지만 눈에 낯설지 않은 독특한 표면을 이루고 있다. 이 텍스처(texture)의 충격력은 강하다. 강할 뿐만 아니라, ‘모체(母體)인 대지(大地)’라는 것을 당연히 느끼게 할 뿐만 아니라, 적어도 동아시아 지역의 사람에게는 자신의 뿌리의 깊이, 옛날 기억과 연관되는 것에 호소하는 요소를 틀림없이 가지고 있다.”
## 이코노믹 리뷰 / Life&People / 문화 / 권동철 (미술 컬럼니스트) / 03.19.2017 ##